ストラスブール BRT 乗車記
エールフランス系のHOP!でアムステルダムからやってきたフランスアルザス地方のストラスブール。
liner883.hatenablog.comストラスブールと言えば、ちょっと欧州の鉄道をかじったことのある方ならきっと見たことがある、とても斬新な形のLRV(Light Rail Vehicle)を使用したLRT(Light Rail Transit)が有名です。
こちらは1994年から運行しており、近年は国境を越え、お隣ドイツにまで乗り入れをするなど、より充実してきています。(ドイツまでは行けてませんが、乗車記は改めてレポート予定。)
今回お届けするのは、BRT(Bus Rapid Transit)の方です。
こちらの車両を用いて運行されているBRTについて簡単にご紹介します。
そもそもBRTとは、バス高速輸送システムと訳せ、定義は明確ではありませんが、従来のバスと比較して、定時性や速達性に優れた策を有し、従来のバスのイメージを一新する工夫を持った、幹線的な役割を担うバスシステムの総称と言えるようです。
要はLRTとバスを足して2で割ったようなもので、LRTほどの輸送力は無いものの、一般のバスよりは輸送力を持たせたシステムと言えるでしょう。
一般のバスに輸送力を持たせる工夫として、専用道や定員の大きな車両、短時間で乗降可能なドアや運賃収受の工夫、公共交通優先信号などがあり、その組み合わせで成り立っていると思われます。
ストラスブールのBRTは、2013年にストラスブール中央駅と市内北西部を結ぶ中量輸送機関として開業しました。路線図の太い線のうち、北北西の向きに延びている線がBRT、他の太い線はLRT、細い線はバス路線です。ちなみにストラスブールは都市圏人口45万人と九州でいうと佐賀都市圏と同等です。
ストラスブールでは、90年代初頭に、自動車分担率を下げ、公共交通や自転車の分担率は上げ、中心部は歩ける街を作るということを目標に、中心部へ向けて各方面からLRTを整備し、また中心部ではゾーン30(自動車は30km/h以下)やふれあい道路(自動車は20km/h以下)など歩行者を中心に考えた街路整備も行っており、中心部の通過・流入自動車の大幅削減に成功しているそうです。
ガラス張りのこれまた斬新な駅舎のストラスブール中央駅前のバス停から乗車します。
バス停はフランス大手広告代理店のドゥコーが設置した電照広告とセットで設置されています。ちなみに、欧州では一般に屋外広告はかなり制限されていることが多く、ドゥコーは公益性の高いバス停に広告を設置する権利を得る代わりに、バス停の維持管理を担うというスキームで、市民とドゥコーや交通事業者とwin-winの関係を築いているようです。
BRTは信用乗車方式のため、あらかじめ券売機で乗車券を買って乗る必要があります。乗車券は一定エリア内を時間制で乗り放題です。
BRTやLRT、バスもそうですが、運賃の収受方法が運行の平均速度を決める一要素であるため、運転士や車掌が車内で精算せずに運行できることは結構重要なことだと思います。
日本のバスや路面電車のように車内で運賃収受が発生するのは、確かに時間がかかりますよね。ただ、欧州であればどこでも信用乗車方式かというとそうでもなくて、特にバスは基本的に運賃は車内精算が主流であることは日本と変わりありませんでした。
写真が不鮮明ですが、乗車券の案内。
そしてわかり易い路線図。
鉄道と同じような接近情報案内。ちなみに乗車したのは元旦の早朝だったため、20分おきと頻度が低いですが、平日朝は6分間隔とのことです。
やってきました。ブレブレ写真で申し訳ないです。ホテルにカメラを忘れてスマホで撮りました。車両はメルセデスベンツのシターロCNGノンステップ連節バスです。片側に4枚ドアがあり、乗降時間の短縮が図られています。デザインはオランダの建築家、テオ・ファン・ドゥースブルフ氏によるもので、おしゃれです。おしゃれで他の都市の人に自慢できるようなものって大事だと思います。自分の都市の誇りにつながる気がしますね。
後ろの車両にもドアが2枚あるのが珍しいと思います。連節バスは前の車両で引っ張っていると思いきや、ノンステップバスなので床下にエンジンルームを設けることができないため、実は後ろから押しているのです。でもこの車両はエンジンルームがものすごくコンパクトでびっくりしました。一番後ろのドアの横のルーバー部だけです。
乗車する時は自分でボタンを押します。JR九州で言うスマートドアです。ドアの窓から見えている座席はジャンプシートで、ベビーカーや車いすの方が使用できます。
ドア付近にはカードリーダーや日本では当たり前の整理券発行機はありません。ただし、乗車前にバス停で改札(刻印)する必要があります。
車内最後部です。エンジンルームはものすごくコンパクトです。車内最後部まフルフラットのノンステップバスです。
液晶の案内表示がありますが、確か表示はフランス語だけだった気が…
連節バスの蛇腹の部分が大好きです(笑)
車内はポップな色使いです。タイヤハウスを活かして後ろ向きにも座席がセットされています。合理的ではあります。座席定員が増えます。
ぐいっと曲がります。結構小回りは効くみたいです。車内の照明は暖色系で、温かみがあります。個人的に日本の照明って、公共空間でも私的な空間でも色にこだわりが少ない気がします。だいたい昼光色か昼白色の蛍光灯というところが多いと思いますが、もっと暖色系の照明が使われてもいいのになと思っています。
BRTの本領を発揮するのは、BRT専用の道路がある区間です。車内から写しているので写っているのは並行する一般車用の道路です。
ちなみにストラスブールでは、約5kmの路線うち約4㎞の専用道路とバス停やパークアンド駐車場、連節バス10台の投資額は合計で約40億円とのことです。LRTの整備費の半額以下ではあります。日本に置き換えると、40万規模の都市で40億円を公共交通のインフラ投資にかけられるところってどれほどあるでしょうか?
考えさせられます。
途中のバス停も屋根付きの立派な「駅」です。
写真で見辛いですが、バスがホームにぴったりと接して停車できるように、縁石の形がタイヤに合わせて少し丸くなっています。
終点はだだっ広いところでした。パークアンドライド駐車場が備わっているから広く見えたんだと思います。元旦の朝はまだ家にいる人が多く、出歩いている人はまれでしたので、駐車場もガラガラです。
折り返してストラスブール中央駅に戻ってきました。
個人的にすごく満足した乗車でした。わざわざ乗りに来たかいがありました。
趣味として乗り物に乗るのが好きなので、こういう街で暮らせたらなんて楽しいだろうとワクワクするような街でした。
大半の方は手段としてしょうがなく乗り物に乗ると思いますが、そういう方でもストレス無く乗り物が利用できる街だと思います。
ストラスブールはこれまで数十年近く、目標を定めて本気で住民と共にまちづくりをしてきているので、結果として今の交通体系が出来ているのだと思います。
一朝一夕で、例えばバスの形だけマネするとか、断片的な捉え方で模倣しても、もちろんうまくはいかないと思いますが、初めの一歩としてストラスブールの交通を体験するのはとても有意義だと思います。